肌のクリニック院長の肌ブログ

東京でニキビ治療・シミ治療・調剤化粧品・プラセンタ療法外来をしている医師のブログ

日焼け止め考察4~酸化チタン・酸化亜鉛

time 2016/08/11

参照記事
日焼け止め考察1~肌に優しい日焼け止め
日焼け止め考察2~酸化セリウム
日焼け止め考察3~手作りではSPFが出ない

結局酸化チタン・酸化亜鉛へ

過去3回に渡って日焼け止めの記事を書いてきましたが、紫外線吸収剤を使用せず、なるべく肌に優しい日焼け止めとなると、酸化チタン・酸化亜鉛に代わる原料はなく、結局酸化チタン、酸化亜鉛へ戻ってきてしまいました。

この2つは、古くから化粧品や医薬品として、肌へ使用されている実績があります。酸化チタンは白色顔料(塗料)として100年以上、微粒子酸化チタンが化粧品へ応用されるようになってから、30年以上の歴史があります。酸化亜鉛は1986年に、オリエンタル薬品工業株式会社が亜鉛化軟膏として、傷口や湿疹部分の消炎、浸出液吸収などの目的で製剤化し、現在でも医療現場で用いられています(ただし、現在は乾燥させて傷を治す方法は主流ではなく、湿潤療法に代わっているため、用いられる頻度は減っています)。長く使用実績がある成分は、それだけ安全性が高いと言えます。

酸化チタン・酸化亜鉛の光触媒作用

以前の記事では、酸化チタンと酸化亜鉛は紫外線を当てると、その光触媒作用により、活性酸素を発生させてしまうことを書きました。多少なりとも肌を錆びさせてしまうため、光触媒作用が少ない「酸化セリウム」の研究・試作をしばらく行っていたのもそのためです。しかし、酸化セリウムがその代用にならなかったのは、日焼け止め考察2~酸化セリウムで記述した通りです。

酸化チタンと酸化亜鉛の光触媒活性を抑えるために、表面処理(コーティング)が行われています。酸化チタン・酸化亜鉛の周囲を、シリカ・アルミナ・シリコーンなどで薄く覆って、紫外線が当たっても活性酸素が発生しないようにしたものです。化粧品用途の酸化チタンは、光触媒活性の低い「ルチル型」がほぼ100%使用されていますし、さらに表面処理によって光触媒活性を低下させているので、あまり過度に神経質になる必要はないと考えています。表面処理をしても完全に光触媒活性を低下させるわけではありませんが、下図で示すように、表面処理をした微粒子酸化亜鉛の光触媒活性を、アセトアルデヒドの分解率で測定した試験では、アルデヒドの分解率が約5分の1に大幅に低減します(光触媒作用により、アセトアルデヒドが分解することを利用した試験です)。微粒子化(ナノ化)された酸化亜鉛でも、表面処理が行われていれば、活性酸素の発生は飛躍的に抑えられることを示しています。

ちなみに、下図を見るとわかりますが、ナノ化酸化亜鉛は、表面積が大きくなるため光触媒活性が高まるものの、微粒子化されていないノンナノの酸化亜鉛と比較して、紫外線照射時の光触媒活性はほとんど変化がありません。つまり、ノンナノの酸化亜鉛でも、紫外線に当てると活性酸素が相応に発生することを示しています。ノンナノの酸化チタン・酸化亜鉛でも、肌を錆びさせないという目的で配合したいのであれば、コーティングは必須であると考えられます。
酸化亜鉛光触媒活性

図引用:山本泰生「機能性顔料としての酸化亜鉛と今後の動向」ハクスイテック株式会社

酸化チタンと酸化亜鉛は、酸化亜鉛のほうが光触媒活性が低いとされています。ただ、紫外光照射による一重項酸素(活性酸素)の生成を評価した試験では、酸化亜鉛のほうが酸化チタンよりも活性酸素を多く生成したとの論文(※)もあり、ルチル型の酸化チタンの光触媒活性は、酸化亜鉛と比較してほとんど変わらないと考えられます。※佐藤次雄「半導体ナノ粒子の紫外光吸収による活性酸素生成とその制御 に関する研究 」東北大学多元物質科学研究所 

微粒子化(ナノ化)は危険なのか?

以前書いた記事「フェルラ酸日焼け止め」でも少し触れましたが、酸化チタンや酸化亜鉛を微粒子化すると透明性が増し、紫外線遮蔽能力が高くなるため、現在日本で用いられている日焼け止めのほとんどにナノ化した原料が使用されています。正常な肌の細胞間の隙間は、40~60nm程度で、それよりも細かい粒子は肌のバリア機能を通過して、生体の内部まで侵入してしまうのではないかと危惧されており、「ノンナノ」を売りにした日焼け止めを販売しているメーカーもあります。

ナノ化酸化チタンを妊娠中のマウスに皮下注射すると胎児に異常が起こったとして、危険説を唱えて自社製品へ誘導しているメーカーもありますが、皮下注射すれば100%体内に入るわけであって、注射をする場合と、日焼け止め用に肌に塗布した場合とでは、リスクは全く異なります。何でも正しい使い方があってこその安全性です。ただし、ナノ化された原料を用いたスプレータイプやパウダータイプの日焼け止めに関しては、それを吸い込んで人体へ入っていく可能性があるため、あまりお勧めしません。

ナノ化の安全性については、使用されてから30年、安全性の評価がなされるようになってから10年程度ですので、まだまだ100%安全とは言い切れないかもしれませんが、現時点ではあまり過度に心配する必要はないと考えています。ナノ化された酸化チタンや酸化亜鉛は、一次粒子径は10nm~35nmであったとしても、化粧品の中では凝集しており、二次粒子径は100nm~200nmとなっています。過去の研究報告では、ナノ化された粒子を肌へ塗布しても、生体内へ侵入せず、角層内に留まることが報告されています。現在までにナノ化酸化チタン・酸化亜鉛が原因と断定できる健康被害の報告がないことも考えると、紫外線の害よりは安全だと思います。

当院の調剤日焼け止めは、酸化チタンのナノ化したものを使用しています。紫外線遮蔽能力、使用感、安全性などを総合的に評価して決定しました。

もしノンナノタイプのものをお探しの場合は、トゥベールから発売されているマイルドUVミルクがそれに当たります。ノンナノタイプは、ナノタイプよりも使い心地が良くないかもしれませんが、より安全性を気にされる方は試してみてはいかがでしょうか。

どんな日焼け止めが良いのか?

酸化チタン、酸化亜鉛は、微粒子化すると紫外線の遮蔽能力が向上します(正確には、粒子径によって、遮蔽できる波長が異なります)。現在は、酸化チタン、酸化亜鉛とも、よりSPFやPAが出る分散体原料があるため、両方を用いればSPF50 PA++++の日焼け止めを、ノンケミカル処方で作製することができます。

各原料メーカーの分散体を私が比較した中で、最も光触媒活性を抑えた原料は、微粒子酸化チタンや亜鉛を高密度シリカで被覆し、さらにその上からシリコーンでコーティングした分散体です。二重で被覆することにより、高い不活性化を実現できます。しかし、当院の調剤では、この原料を採用しませんでした。その理由は「シリコーン」にあります。

シリコーンは人体に対する安全性が高く、水をはじく性質があるため、「ウォータープルーフ」タイプの日焼け止めに使用されています。汗によるメイク崩れを防ぎ、スポーツ時にも落ちにくいため、夏に使用する日焼け止めとしては欠かせないものになっています。しかし、その反面、せっけんでは落ちにくく、メイク落としやクレンジングが必要となります。当院でシリコーンコーティングの原料を使用しなかった理由は、男性の患者さんも多く、日焼け止めのためにわざわざメイク落としを使うことに抵抗がある方がいるからです。採用しなかったもう一つの理由としては、シリコーンコーティング原料の使用感にあります。試作をして使い心地を試してきた中で、シリコーンコーティング原料独特のキシミ感や、日焼け止めを塗られている感がどうしても気になってしまい、採用する気になれませんでした。市販の日焼け止めはシリコーンコーティングされたものが主流ですので、ドラッグストアで手軽に手に入るものを院内調剤で作る必要性がないというのも理由の一つです。

女性は毎日メイク落としを使用するため、メイク崩れしないシリコーンコーティングされた日焼け止めのニーズは高いです。ただ最近では、洗顔料で落ちるメイクやミネラルファンデーションを使用し、メイク落としは肌に負担がかかるので極力使用しないという方も増えています。また、外に出るのは通勤、通学の短時間のみで、大部分は屋内で過ごすので、ウォータープルーフタイプの日焼け止めは必要がないと言う方もいます。そのような方のニーズもあり、「洗顔料や石鹸で洗い流せる普段使いの日焼け止め」を調剤することにしました。いろいろ書きましたが、実は、日焼け止め嫌いの私が使えるような、マイルドな付け心地、かつ、帰宅したらすぐに石鹸とシャワーで洗い流せる、簡単で肌に負担がかからない日焼け止めが欲しいと思って作製したというのが正直なところです。

スポーツやレジャーで汗をかく際は、市販のウォータープルーフタイプの日焼け止めを使用し、日常生活では、当院の調剤日焼け止めを使用してもらうのが良いと思います。当院の調剤日焼け止めは8月下旬~9月初旬に処方可能になる予定です。

ちなみに、日焼け止め考察2~酸化セリウムで記述しましたが、表面処理方法としてステアリン酸やイソステアリン酸を用いるのは、使用感・分散性・他の成分との相性(配合性)を改善させる目的であり、コーティングにより光触媒活性を抑えることはできません。シリカや水酸化アルミニウム、シリコーンのコーティングであれば、光触媒活性を抑えることができます。

日焼け止め考察5~調剤日焼け止めへ

肌のクリニック

院長 岩橋 陽介

院長 岩橋 陽介

東京の調剤化粧品とニキビ治療専門皮膚科 肌のクリニック高円寺院の院長ブログ。Twitterではスタッフ全員でつぶやいています。 [詳細]