2017/12/28
いきなり実験動画を掲載していますが、うがい薬のイソジンガーグル(ポピドンヨード7%)を30mlの浄水に20滴入れ、そこに市販のAPPS(パルミチン酸アスコルビン酸3Na)化粧水と当院の高濃度浸透型VCローション(VCエチル5%)を5滴ずつ垂らしました。
APPS化粧水はヨウ素を還元せず、VCエチルはヨウ素を還元して水が透明に戻っています。
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この実験の結果は何を意味しているのでしょうか?今回はそれを考察していきます。
ちなみに市販のAPPS化粧水は、某有名ブランドのAPPSを配合したVCローションです。点眼容器に入れ替えていますが、実験の5分~10分前に封を開けたばかりの新品の化粧水です。
新品の市販のAPPSローションを透明な点眼容器へ移すと、すでにその時点で黄色くなっていました。これはAPPSがすでに酸化している、もしくは、未反応のビタミンCが酸化していることに起因しています。APPSが黄色くなる詳しい理由は「その美白化粧品が効かない理由~ビタミンC編その2~」に記述していますのでご覧ください。
目次
ビタミンC(アスコルビン酸)の構造と特徴
ビタミンC(アスコルビン酸)の分子式はC6H8O6で、構造式は左下の図に示す通りです。それぞれの炭素には右下の図のように1位~6位まで順番がふってあります。
アスコルビン酸の2位と3位の水酸基(OH基)はエンジオール基と呼ばれ、抗酸化作用の中心的役割を担います。下図のように、2位と3位の水酸基から水素イオンが遊離して、アスコルビン酸はデヒドロアスコルビン酸に変化します。
還元型ビタミンCから酸化型ビタミンCへ変化することによって、自身を酸化させ、その代りに周囲の物質を還元して酸化から守ります。
アスコルビン酸の抗酸化活性はエンジオール基である2位と3位の水酸基が最も強く、最も酸化されやすくなっています。ビタミンC誘導体は、この2位、または3位、あるいは両方の水酸基をエステルで化学修飾することにより、ビタミンC(アスコルビン酸)の安定性を向上させています。
ヨウ素がビタミンCで還元されて透明になる理由
うがい薬にビタミンCを入れると、還元されて色が無色透明になります。うがい薬はヨウ素(I2)を含んでおり、水溶液中では三ヨウ化物イオン(I3-)が生成されています。平衡式は次のようになります。
I2+I- ↔ I3-
この三ヨウ化物イオン(I3-)が茶褐色を呈するので、うがい薬は茶色に見えます。
ここにビタミンCを入れると、先述したようにエンジオール基から水素イオンが遊離して、ヨウ素(I2-)を還元します。
C6H8O6+I2 → C6H6O6+2I-+2H+
ヨウ素(I2)が還元されて減少するので
I2+I- ↔ I3-
の平衡式は左矢印方向へ動き、茶褐色の三ヨウ化物イオン(I3-)が減少して、色が薄く透明になっていきます。
VCエチルはそのままの形でビタミンCの還元性を有する
VCエチルの分子式はC8H12O6、分子量は204.18とビタミンC誘導体の中ではもっとも小さく、アスコルビン酸に近い(含有量が多い)誘導体です。
3位の水酸基がエチル基で修飾されただけの単純な構造ですが、この3位の水酸基を修飾することによって、ビタミンCよりも非常に高い安定性を獲得しています。
最初の動画で、5%VCエチルの化粧水を5滴入れただけでヨウ素液が透明になりましたが、エンジオール基の2位の水酸基が残っていることにより、水素イオンが遊離してヨウ素を還元したためだと推察されます。
つまり、VCエチルはそのままの形(エチル基がくっ付いたまま)でも、高い還元性を有しているということです。VCエチルが「即効性」のVC誘導体と呼ばれる所以はここにあります。
APPSの化粧水では、なぜイソジンは透明にならなかったの?
動画では、新品のAPPS配合化粧水ではヨウ素液は還元されませんでした。これにはいくつか理由があります。次回以降、そのことについて考察していきます。