肌のクリニック院長の肌ブログ

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ヒルドイドローションやジェネリックの美容利用騒動

time 2017/11/06

ヒルドイドローション、ヒルドイドクリーム、ヒルドイドソフト軟膏といった昔からある保湿剤が、ちょっとした騒動となっています。ヒルドイドは、医薬品の「ヘパリン類似物質」が含まれた保湿剤で、アトピーや乾皮症、皮脂欠乏性湿疹といった疾患に保険適用で処方されています。

ヒルドイドはジェネリック医薬品数多く出ており、ジェネリック医薬品の中で一番売れている(処方数が出ている)のがビーソフテン(持田製薬)です。先発品とジェネリック医薬品の関係は以下のようになります。

先発品ジェネリック
ヒルドイドローション0.3%ビーソフテンローション0.3%
ヒルドイドクリーム0.3%ビーソフテンクリーム0.3%
ヒルドイドソフト軟膏ヘパリン類似物質油性クリーム0.3%「日医工」

ヘパリン類似物質油性クリーム「日医工」は、かつてはビーソフテン油性クリームという名称でした。製造元が日医工、販売元が持田製薬とのことで、ヘパリン類似物質油性クリーム「日医工」へ名称変更になっています。

ちなみに、先発品のヒルドイドには「ヒルドイドゲル0.3%」というゲルタイプもあります。また、ジェネリックのビーソフテンには、ビーソフテンローションと内容成分が全く同一のスプレータイプがあります。ビーソフテンローションと同じなのですが、スプレータイプだけビーソフテン外用スプレーから、ヘパリン類似物質外用スプレー「日医工」へ名称変更となっています。

ヒルドイドの美容利用

現在、ヒルドイドとそのジェネリック医薬品が保険適用外になるのでは?ということで、問題になっているのです。

その理由として、美容サイトや雑誌などによって「高級美容クリームよりずっといい!」と紹介され、本来病気のために使用される医薬品であるにもかかわらず、大した症状もないのに保湿や美容目的で使用する人が増え続け、医療費を圧迫していることが原因となっています。

健康保険組合連合会の2014年10月から2016年9月の2年間の調査による推定では、全国で年間93億円分ものヒルドイド、もしくはそのジェネリック医薬品が処方されているとのことで、かなりの医療費であることがわかります。

つまり、「美容利用での医療費を圧迫により、ヒルドイドとそのジェネリックを保険適用外にしなければならず、本当に必要な人が困る」と騒がれているわけです。

ヒルドイドの成分って何?

まず、ヒルドイドの美容利用問題を考察するにあたって、ヒルドイドローションの成分を見て基本的な知識を確認しておきます。

成分・含量(1g中)
ヘパリン類似物質 3.0mg
添加物
グリセリン、白色ワセリン、スクワラン、セタノール、還元ラノリン、セトマクロゴール1000、モノステアリン酸グリセリン、パラオキシ安息香酸エチル、パラオキシ安息香酸プロピル、カルボキシビニルポリマー、ジイソプロパノールアミン

ヒルドイドローションはO/W型の乳液です。O/W型というのは、oil in water つまり、油性成分が水の中に分散している状態の製剤です。べたつきが少なく、水で洗い流せるので使用感が良いのが特徴です。

ヒルドイドの有効成分は?

有効成分は「ヘパリン類似物質」のみです。1g中に3mg、つまり、0.3%の濃度でヘパリン類似物質が配合されています。

ヘパリン類似物質はムコ多糖類と呼ばれ、ヒアルロン酸やコンドロイチン、グルコサミンなどの仲間です。保水力があり、保湿剤として使用されます。抗凝固作用(血液を固まり難くさせる作用)を持つヘパリンの糖鎖を短くして低分子化したものとされています。

「ヘパリン類似物質は、ドイツのルイトポルド・ウエルク製薬会社で創製されたムコ多糖の多硫酸化エステルで、D-グルクロン酸と N-アセチル-D-ガラクトサミンからなる二糖を反復単位とする多糖体を SO3-で多硫酸化したものである。」とヒルドイドゲル添付文書に記載がありますから、ヘパリンより低分子化されていたとしても、ある程度の高分子であることが推察されます(推定構造式のため、分子量の記載なし)。

ヘパリン類似物質の構造中には、硫酸基、カルボキシル基、水酸基などの、水と結合しやすい親水基がありますので、高い保水能力があります。それによって、保湿能力を有していることがわかりますが、「ヘパリン類似物質は、ヘパリンより低分子化されているので、表皮の基底層まで届いて保湿します。」という某製薬会社(マルホ株式会社ではありません)の宣伝は本当なのかな?と疑ってしまいます。

低分子化されているといっても、ムコ多糖類ですので数千以上の分子量があるはずです。それが角層のバリアを通過して基底層まで入るなんてことは通常ないわけで、後に出てくる界面活性剤の作用で角層のバリアを破壊しない限りは到底無理なんじゃないかと考えます。

アトピー性皮膚炎で皮膚バリアが障害されている場合は、ヘパリン類似物質は基底層まで届くというのはあり得る話ですが、某製薬会社の宣伝のように無条件で届くというのも、どういう原理なのか訝しがってしまいます。

また、ヘパリン類似物質は抗炎症作用や血流増加作用、抗凝固作用があるとされていますが、肌のきめを整える、毛穴を小さくする、アンチエイジングになるなどの美容効果はありませんまた、私が調べた限り海外ではヘパリン類似物質は保湿剤として用いられておらず、さらに開発元のドイツですら保湿剤として用いられていませんでした。

高分子のヘパリン類似物質は、肌表面に保湿成分として留まるのであれば、ヒアルロン酸やセラミドなど他の優秀な保湿成分で十分代用は効きますし、一緒に配合されている界面活性剤で角層バリアを破壊して、表皮深部までヘパリン類似物質を浸透させるのであれば、短期間の使用では潤いは得られても、年単位の長期使用では、逆に乾燥肌を悪化させてしまう懸念もあります。

いずれにせよ、ヘパリン類似物質配合の医薬品が保湿目的、美容目的を含めて年間93億円分も処方されているのは日本だけであり、特殊と言わざるを得ません。

ヒルドイドの他の成分は?

次に添加物について見ていきましょう。油性成分が多いため、「油性成分あれこれ」のページも参照しながら読んでいただければと思います。ちなみに、ヒルドイドローション、クリーム、ソフト軟膏に配合されている有効成分以外の成分は、全て化粧品原料としても登録されているものです。

〇グリセリン…代表的な水溶性の保湿剤なので、知っている方も多いと思います。

〇白色ワセリン…石油を精製して得られた炭化水素。油性の保湿剤。白色と付いていますが、普通のワセリンのことです。ちなみに精製度が高い順に、サンホワイト、プロペト、白色ワセリンとなりますが、成分名で記載する場合は、全て白色ワセリンとなります。

〇スクワラン…炭化水素。油性の保湿剤。サメや植物から得られる油「スクワレン」に水素を添加して酸化しにくくしたもの。

〇セタノール…高級アルコール。常温では白色のろう状の固体で、べたつかず保湿作用があり、界面活性作用もあるため、クリームや乳液の乳化安定剤として用いられています。(旧表示指定成分)

〇還元ラノリン…ロウ。ラノリンは羊の毛のあぶらを精製したものです。ラノリンに水素添加して作られるのが還元ラノリンです。皮脂に馴染みやすく、親水性もあるため(界面活性作用)、保湿剤、乳化安定剤として用いられています。還元ラノリンは、ラノリンよりアレルギー性は低いものの、比較的アレルギー性が高いため、最近は還元ラノリン配合の化粧品を見る機会は少なくなってきました。(旧表示指定成分)

〇セトマクゴロール1000…ポリエチレングリコール(多価アルコール)。水溶性保湿剤。数字の1000は平均分子量を表しています。医薬品表記と化粧品表記が異なるので、セトマクロゴール1000という表示は馴染みが薄いかもしれませんが、PEG-20という表示であれば見たことがある人もいるのではないでしょうか。PEGの後の数字は重合度を表しています。

〇モノステアリン酸グリセリン…ステアリン酸グリセリルのことで、界面活性剤です。ステアリン酸グリセリルなどの界面活性剤は、多価アルコール(親水基)と脂肪酸(親油基)とをエステル結合させた多価アルコールエステル型と呼ばれています。ステアリン酸グリセリルは、多価アルコールとしてグリセリン、脂肪酸としてステアリン酸をエステル結合させて作られたノニオン合成界面活性剤です。

〇パラオキシ安息香酸エチル…エチルパラベン。防腐剤。(旧表示指定成分)

〇パラオキシ安息香酸プロピル…プロピルパラベン。防腐剤。(旧表示指定成分)

〇カルボキシビニルポリマー…化粧品表示ではカルボマー。増粘剤としてクリームや乳液によく使われています。アルカリで中和すると増粘するため、水酸化Na、水酸化K、TEAなどのアルカリと一緒に配合されますが、ヒルドイドローションでは、後述するジイソプロパノールアミンと一緒に配合されています。

〇ジイソプロパノールアミン…PH調整剤。ヒルドイドローションでは、カルボマーの増粘効果を得るために配合されています。(旧表示指定成分)

ついでに、ヒルドイドクリームとヒルドイドソフト軟膏の成分表も下記に記述しておきます。それぞれの成分については、ぜひご自分で調べてみてください。

ヒルドイドクリームヒルドイドソフト軟膏
成分・含量(1g中)成分・含量(1g中)
ヘパリン類似物質 3.0mgヘパリン類似物質 3.0mg
添加物添加物
グリセリン 、ステアリン酸 、水酸化カリウム 、白色ワセリン 、ラノリンアルコール 、セトステアリルアルコール 、セトステアリルアルコール・セトステアリル硫酸ナトリウム混合物 、ミリスチルアルコール 、パラオキシ安息香酸メチル 、パラオキシ安息香酸プロピル、イソプロパノールグリセリン、スクワラン、軽質流動パラフィン、セレシン、白色ワセリン、サラシミツロウ、グリセリン脂肪酸エステル、ジブチルヒドロキシトルエン、エデト酸ナトリウム水和物、パラオキシ安息香酸メチル、パラオキシ安息香酸プロピル

ヒルドイドはアトピーにいいの?

今回のヒルドイドの保険適用外問題には様々な意見がありますが、その中に「アトピーでヒルドイドしか使えないから、保険適用外になると困る。」「うちの子はアトピーで保湿にずっとヒルドイドを処方されているから、保険適用外になったら死活問題になる。」という、アトピー患者側からの意見があります。

ヒルドイドは、正確にはアトピー性皮膚炎に対しての保険適用はありません。アトピーや加齢などに伴って起こる皮脂欠乏症に対して保険適用となっています。アトピー性皮膚炎の方は、ほとんどの方が皮脂が足りていない状態ですから、ヒルドイドを保湿剤として処方されるケースは多いと思いますし、それ自体は特に構いません。

ただ、そもそもヒルドイドってアトピーにそんなにいいの?って疑問に思う方もおられるので、ここではその点を記述していきます。私が調べた限り、アトピー性皮膚炎の乾燥に対して、ヒルドイドが他の保湿剤よりも優れているというエビデンスはありません。

「ステロイド外用治療を行ったアトピー性皮膚炎患者に、ヒルドイドローションを1日2回、4週間単純塗布した前後比較研究で、ヒルドイドを塗った12人の21部位のうち、20部位で症状の再燃が見られず寛解を維持した(つまり良い状態を保っていた)。」という報告があります。(※1)

上記の試験は小規模の前後比較研究でエビデンスレベルは低いものです。ヒルドイドでなくても、ワセリンなど他の保湿剤でもよいのでは?と誰しも思うはずです。ヒルドイドと他の保湿剤の比較試験がなされているわけではないのです。

保湿がアトピー性皮膚炎の寛解(良い状態を保つこと)に重要であるということは、皮膚科医の間では常識であると思います。(一部の医師は、保湿に反対されている方もおられますが。)

日本皮膚科学会のアトピー性皮膚炎ガイドラインでも「乾燥した皮膚の保湿外用薬(保湿剤・保護剤)の使用は、低下した角層水分量を改善し、皮膚バリア機能を回復させ、皮膚炎の再燃予防と痒みの抑制につながる(CQ9:推奨度1、エビデンスレベル:A)」となっており、保湿剤の使用が推奨されています。

マルホ株式会社の医療関係者用の情報提供ページを見てみると「炎症が治まって寛解状態にあるアトピー性皮膚炎患者のうち、ヒルドイドソフト軟膏を1日2回6週間塗布した32例と無塗布の33例を比較して、ヒルドイドソフト軟膏を塗布した群において有意な寛解維持効果が認められた」との記載があります。(※2)

ヒルドイドソフト軟膏が、アトピー性皮膚炎の寛解維持に効果があるとした報告ですが、アトピー性皮膚炎の乾燥に対する保湿剤の有用性は推奨度1であり、ヒルドイドではなくても、ワセリンなどの他の保湿剤でも同様に寛解維持効果が得られる可能性は高いと考えられます。

※1 山田裕道. アトピー性皮膚炎に対する寛解維持療法としてのヒルドイド(R)ローションの有用性の検討. 臨床皮膚科 2005; 60(7): 96-101

※2 皮脂欠乏症の主な原因:アトピー性皮膚炎

これらの研究、報告だけでは、ヒルドイドが効果があったのか、保湿が効果があったのかはわかりません。さらに言えば、「ヘパリン類似物質が入っていない保湿クリームでも同様の効果があるんじゃないの?」という疑問が生じます。ぜひ、製薬会社にワセリンとヒルドイドの比較試験や、ぺパリン類似物質配合のクリームと無配合のクリームとの比較試験(RCT)を行って頂きたいと思います。

医師の立場から言うと、「アトピー性皮膚炎に限らず、保湿剤については、ヒルドイドでないとダメということはなく、肌に合ったものであれば他のものでも構わない。」ということです。

次回の「ヒルドイドの美容効果と副作用について」に続きます。

肌のクリニック

院長 岩橋 陽介

院長 岩橋 陽介

東京の調剤化粧品とニキビ治療専門皮膚科 肌のクリニック高円寺院の院長ブログ。Twitterではスタッフ全員でつぶやいています。 [詳細]