肌のクリニック院長の肌ブログ

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ヒルドイドは保険適用外にすべきか

time 2017/11/11

ヒルドイドが保険適用外になるのでは?という問題は、美容目的利用の急増によってクローズアップされました。いつからかというと、ヒルドイドの保険適用範囲が見直されるのは、早くても来年度以降になりそうです。また、直ちに保険適用外になるかというとそれも曖昧で、現在のところは、1ヶ月の処方数を制限したり、適応疾患を絞ったり、他の薬と一緒でないと処方できないようにしたり、といったことが議論されています。

今回、ヒルドイドとそのジェネリックの保険対象外の問題について、患者、医師、製薬会社、厚労省のそれぞれの立場からの見解を考察していきます。

前々回の記事「ヒルドイドローションやジェネリックの美容利用騒動」と、前回の記事「ヒルドイドの美容効果と副作用について」からの続きです。

ヒルドイドの保険病名

保険病名というのは、ヒルドイドの処方を保険で適用にするために必要な病名です。ヒルドイドというと、アトピー性皮膚炎の患者さんが使用しているというイメージもあるかもしれません。

SNSなどでは、「アトピー性皮膚炎の人はヒルドイドを使って良いけど、ただ単に保湿目的の人は使用しないで!」という声が散見されます。ヒルドイドはアトピーの人用の保湿剤で、それ以外の人は保湿に使用しないで欲しいという意見です。

しかし、実は、ヒルドイドはアトピー性皮膚炎に保険適用になっておらず、乾燥肌(皮脂欠乏症)には保険適用になっています。

つまり、現在の保険制度上は、アトピー性皮膚炎という病名でヒルドイドを処方されることは違反で、乾燥肌の保湿目的でヒルドイドを処方されることは問題なしということになります。SNSで呼びかけられているのと逆なわけです。正確にはアトピーによる「乾燥肌」には保険適用ですが、それは、アトピーだけではなく、年齢によるものなど、皮脂が減って起こる乾燥肌なら保険適用になります。なんだかややこしいですね。

今回のヒルドイド騒動では、この「保険病名」についてよく理解しておかないと、核心が見えてきません。

ヒルドイドローション・クリーム・ソフト軟膏の保険病名

血栓性静脈炎(痔核を含む)、血行障害に基づく疼痛と炎症性疾患(注射後の硬結並びに疼痛)、凍瘡、肥厚性瘢痕・ケロイドの治療と予防、進行性指掌角皮症、皮脂欠乏症、外傷(打撲、捻挫、挫傷)後の腫脹・血腫・腱鞘炎・筋肉痛・関節炎、筋性斜頸(乳児期)

保険で認められる処方量に上限は設けられておらず、1ヶ月に25gであろうが、500gであろうが処方可能です。あまりに処方量が多い場合は査定になるケースもありますが、原則、よほど大量に処方しない限りは、保険が通らないことはありません。

ケロイドの治療について

ヒルドイドの保険病名を見ると、非常に広い範囲の疾患が保険の対象となっていることがわかります。医薬品は保険病名の疾患に対して効果が認められることが原則ですが、臨床をやっていて正直「ほんとに効果あるの?」と思ってしまう病名が入っていることがあります。

ヒルドイドの例で言うと、ケロイドの治療がそれにあたります。ヒルドイドでケロイドが良くなったという事例は私の経験では一例もありませんし、そのような事例を聞いたこともありません。もちろん、データや論文を厚労省へ提出して保険病名を通しているので、効果がゼロとは言いませんが、ヒルドイドに限らず、医薬品の保険病名に対するペーパー上の効果と、実際の臨床上の効果というのは異なることは多く、臨床では「この薬全然効かないなあ…。」という薬が山ほどあります。

一度保険病名が通るとそれが覆されることは非常に稀であり、臨床上たいして効果のない病名に対して、保険がずっと適用されているのも問題があります。

臨床をしていると「この薬ってこんな病気に保険が通るんだ!?」と驚くことがありますが、日本の保険制度では、何十年も前の保険病名がずっと適用されたままです。本来は、一定の年月が経過した後に、不必要な保険病名の削除や見直しがあるべきで、そうでないと医療費は際限なく膨み続けていくことになります。

皮脂欠乏症について

保険適用病名になっている皮脂欠乏症とはどのような疾患でしょうか?

皮膚の表面の脂(あぶら)が減少することにより皮膚の水分が減少して、乾燥を生じてしまう病気です。 中高年者の手足、特に膝(ひざ)から下によくみられ、皮膚がカサカサしてはがれ落ちたり、ひび割れたりします。 また、かゆみを伴い、掻(か)くと悪化して湿疹になったりします。引用:マルホ株式会社公式サイト

上記にあるように、乾燥肌(ドライスキン)、乾皮症もほぼ同義で用いられています。アトピーによるものであれ、加齢によるものであれ、肌のあぶらが減少して起こる乾燥肌は、すべて皮脂欠乏症という疾患概念に含まれます。

この皮脂欠乏症という疾患に保険適用が通っていることが、今回の問題の大きな要因となっており、それについては後述します。

保険適用外についての議論

ヒルドイドローションやジェネリックの美容利用騒動」で記載した通り、美容目的での処方が急増したことにより、ヒルドイドを保険適用外すべきという問題が浮上していますが、実は、湿布薬や風邪薬、漢方薬、ビタミン剤などにも同様の議論が過去にありました。保険財政がひっ迫している日本において、いかに医療費を削減するかは重要な課題です。

日本では、高齢者は1割~2割負担、東京23区などは中学生までは実質医療費は無料、生活保護の方も医療費は無料です。日本の国民皆保険制度は素晴らしい制度ではありますが、年々増大する医療費によって、その維持が危ぶまれている状況でもあります。

実際、2012年から栄養補助目的のビタミン剤の処方は保険適用外になり、2014年からうがい薬の単独処方ができなくなりました。ビタミン剤やうがい薬は市販で安価に手に入ります。それにもかかわらず、保険適用でさらに安価、もしくは、無料で手に入れられるのは問題だと結論付けられた結果です。これによって国費負担がそれぞれ50億も削減できたとのことなので、相当な処方量であったことが窺えます。

また、昨年からは、70枚を超える湿布薬の処方は保険適用外となりました。現在は、風邪薬にも保険適用除外の議論がなされています。風邪薬はそもそも意味がないというのは、ほとんどの医師が知っていることであり、海外の大部分の国では保険適用外です。日本では、いまだに風邪で抗生剤を処方する医師も多く、感冒=風邪自体を保険対象病名から外す流れになるのは必然と言えるでしょう。

ヒルドイドの保険適用外についてはどうでしょうか?現在のところ、直ちに適用外になるということはなさそうですが、処方数の制限や単独処方の制限などが議論されています。

ヒルドイドの保険適用外への賛否

現在ヒルドイドを処方してもらっている方は、保険適用外になると安価に薬が手に入らなくなるので、大反対でしょう。特に低所得者の方にとっては、死活問題という方もおられます。

しかし、美容目的の使用による急増で今回問題になっているものの、以下の現状も考慮しなければなりません。

  • ヒルドイド含め、ヘパリン類似物質は海外では保湿剤として使用されていない。
  • そもそも保湿剤自体が保険適用されている国はほとんどない。
  • 保湿はヒルドイドが特段優れているわけではなく、アトピー性皮膚炎の保湿はヒルドイドでなければならないという明確なエビデンスはない。
  • 安価な保湿剤が薬局で沢山売られている。
  • 日本の医療費は膨大で、国民皆保険自体の維持が危ぶまれている。

これらの現状を考えると、本来、ヒルドイドやビーソフテンを保湿目的に処方する場合は、保険適用外になっても仕方がない側面があります。

国側は医療費を削減しなければならないため、適用疾患の制限や単独処方の制限、処方数の制限をしようとするでしょう。過去の流れから、恐らく何もしないということはなく、早晩何らかの規制をしてくると考えます。

医者側からすると、ヒルドイドの保険適用外は賛否両論です。主に勤務医は、保険適用外に賛成の方が多いのではないかと推察されます。大学病院や民間病院の勤務医は非常に忙しく、外来も午前中の1コマだけで40人以上診なければなりません。毎日へとへとで、少しでも余計な仕事を減らしたいと思っていますから、本音では「保湿剤くらい薬局で買ってくれ。」と思っている医師もいます。

反面、開業医は、処方数が減ると売り上げが減ることに繋がるため、反対される方もおられるでしょう。建前では、「アトピー性皮膚炎のコントロールにおいて、ステロイドと保湿剤は重要な役割を担っているので、保湿剤の処方がなくなると患者にきちんとした指導ができない。」などと言われるかもしれません。しかし、保湿剤の処方ができなくなったとしても薬局で購入できる場合はどうでしょうか?「薬局で買って、1日2回塗ってください。」などの指導はできるわけで、そのような意見はやはり建前と言わざるを得ません。

製薬会社はどうでしょうか?もちろん、大反対です。平成26年の有価証券報告書では、マルホ株式会社の売上の51%をヒルドイドが占めているため、もしも保険適用外になった場合は、それこそ製薬会社にとって死活問題ですので、断じて保険適用外だけは避けたいでしょう。

ヒルドイドの保険適用と美容目的の線引き

安易に処方する医師にも責任がある!という意見がありますが、それは全くその通りです。子供の医療費が無料だからと自分の分まで欲しいという母親に処方したり、たいして乾燥もしてないのに、大量に欲しがる患者に処方したりというのは論外です。

そして、本来は、本当に必要な患者にだけ保険で処方され、そうでない患者には自費で処方、もしくは、薬局で購入されるべき薬剤です。それが理想なのですが、現実はなかなかそうはいきません。

先述したように、ヒルドイドは皮脂欠乏症≒乾燥肌に保険適用されています。顔や手の乾燥、肘や膝のカサカサも対象になるわけで、非常に広範囲の方が適用になります。実際の診療では「美容に良いって聞いたので、ヒルドイド処方してください!」なんて患者さんは稀なわけで、ほとんどの方は「乾燥しているので、処方してほしい。」と訴えてきます。

前述しているように乾燥肌にヒルドイドは保険が使えますから、現状の医療保険制度では、アトピーでなくても、肌が乾燥している場合にヒルドイドを処方してもらうことは、違法ではありません。逆に、アトピーの方でも肌が乾燥してなければ、ヒルドイドは保険適用になりません。

ヒルドイドを使いたいという方は、多かれ少なかれ肌が乾燥していて、保湿のために使いたいわけであって、どこからが美容目的でどこからが保湿目的なのか、線引きは困難です。

では、医師から見てどれくらい乾燥していたら処方するのか?粉が吹いていたら処方する?落屑を認めたら処方する?

それも線引きは非常に難しく、ほとんどの医師は、患者の自覚症状、つまり、患者自身が「肌が乾燥している。」と訴えて、薬を希望すれば処方するでしょう。診察時に肌が乾燥していないように見えても、患者がヒルドイドなどの保湿剤でケアを継続しているから乾燥していないケースもありますし、気温や湿度などの要因で後から乾燥することもあります。

保湿剤には「乾燥を悪化させないようにする。」という予防的側面もあるため、診察時に肌が乾燥していないからといって、ヒルドイドが不要であるという判断をすることは難しいと言えるでしょう。

肌が乾燥するので出してほしいと患者が訴えているにも拘わらず、いちいち「本当は美容目的では?」と疑ってかかるのは、患者との関係を悪化させて面倒になるだけですから、すんなりと処方している医師が多いと思われます。

ヒルドイドは保湿剤として特段優れているわけではありませんし、以前の記事「ヒルドイドはアトピーにいいの?」で書いたように、アトピー性皮膚炎であったとしても、他の保湿剤と比較してヒルドイドが有効であるというエビデンスはありません。ワセリンなどの他の保湿剤でも代用はできるため、ヒルドイドが必須なわけではありませんから、本当の意味でヒルドイドの処方が必要な患者はごく限られるはずです。「本当にヒルドイドが必要な人のために、安易に処方しないで!」という文言を忠実に守るすると、恐らく現在の処方のほとんどが不必要で、削減できるのではないかと考えます。

一方、ヒルドイドを処方されている乾燥肌の方の中には「私は、ヒルドイドを本当に必要としているの!」という方がおり、厄介なことに、そういう方はヒルドイド信者のようになっており、他の保湿剤ではダメだと本気で思い込んでいます。保湿でヒルドイドを使用している人は、本来ヒルドイドが不必要なカテゴリーに入るのですが、SNSで「ヒルドイドの美容目的やめて!本当に必要な人だけに医療費を!」などと叫んでいたりしますから、必要な人の線引きがどこにあるかは難しいところです。

皮脂欠乏症をヒルドイドの保険病名から外す?

必要な線引きが医者も患者もできず、このようなこと問題が起こっていますので、皮脂欠乏症≒乾燥肌を保険病名から除外する(乾燥肌のみの患者へのヒルドイドの保険適用を認めない)という議論もなされています。

ヒルドイドの保険適用外に反対する方は、建前では「必需品である。」「病気のコントロールに必要。」と訴えています。しかし、前々回から今回の記事で書いている通り、保湿剤として必ずしもヒルドイドでなければならないということはなく、また、そうだとしても、薬局で同様の薬がOTCとして購入できます。

「医師の処方のもとでないと副作用の懸念がある。」と訴える方もいますが、これも前回の記事「ヒルドイドの副作用は?」で記述しているように、大した副作用はありません。薬局で購入するにあたって、きちんと用法用量を守って使用するのであれば、問題となることはほとんどないでしょう。

上記は建前ですが、保険適用外に反対する方たちの本音では、患者側は「保険を使って安価にヒルドイドを手に入れられなくなる。」、医師・薬局側は「処方することによって医療費(診察料・処方箋料・調剤料・薬価差益など)が得られなくなる。」と言った、金銭的な部分が主であると考えられます。

いずれにせよ、乾燥肌の保湿剤を保険適用とすること自体、現状の際限なく膨らむ医療費から考えて、厳しい目が向けられることになるでしょう。

ヒルドイドの値段が高くなることが理由で保険適用除外に反対してる方も多いはずですので、今後、もっと安価に薬局で購入できるようなれば、ある程度丸く収まるのではないかと思います。ただ、OTCの場合は競合も激しく、製薬会社が苦境に立たされてしまう可能性が高いため、それも難しいのかもしれません。

※アイキャッチ画像はマルホ株式会社の公式サイトより引用

肌のクリニック

院長 岩橋 陽介

院長 岩橋 陽介

東京の調剤化粧品とニキビ治療専門皮膚科 肌のクリニック高円寺院の院長ブログ。Twitterではスタッフ全員でつぶやいています。 [詳細]