肌のクリニック院長の肌ブログ

東京でニキビ治療・シミ治療・調剤化粧品・プラセンタ療法外来をしている医師のブログ

ヒルドイドの処方規制の見送りについて

time 2018/01/28

ヒルドイドが化粧品目的(美容目的)で使用されているケースが多いことがわかり、国が保険適用での処方を制限する検討をしていましたが、先日、厚生労働省は「薬の処方に規制を設けない」という方針を決めました。

このことにより、ヒルドイドとそのジェネリック医薬品である「ヘパリン類似物質入りのローション・クリーム」は、今まで通り処方制限なく保険が適用されます。

規制が見送られた理由は、乳がん患者会から「抗がん剤や放射線治療後の皮膚の乾燥に保湿剤は欠かせないため、保険を外さないでほしい。」という要望があったほか、中医協の委員からも慎重な対応を求める声が出たためとしています。

ヒルドイドの治療目的での処方とは?

厚生省は、薬の処方には規制や制限は設けられませんでしたが、ヒルドイドがきちんと治療目的で処方されているかを社会保険診療報酬支払基金に十分確認するように求めています。

しかし、この治療目的の線引きは不可能です。

なぜなら、現状の医療保険制度では、ヒルドイドは「乾燥肌」というごくありふれた症状に対して保険が適用されているからです。(参照:ヒルドイドの保険病名

この乾燥肌は非常に広い範囲に解釈でき、例えば、

  1. 年を取ったので顔のあぶらが減って乾燥します。
  2. もともと皮脂が出にくいのか、体が乾燥します。
  3. 冬は肌がかさかさになるんです。
  4. アトピーで肌が乾燥してしまって。
  5. 抗がん剤の影響で肌がガザガザになってしまいました。

といった、「肌が乾燥するからヒルドイドを出してほしい。」という全ての訴えに対し、保険でヒルドイドを処方することが可能です。

こんな医療保険制度で、一体どうやって治療目的かそうでないかを確認するのでしょうか?患者さんが肌の保湿のためにヒルドイドの処方を希望した場合、保険制度上認められていますから、処方しても何の問題もないことになります(参照:ヒルドイドの保険適用と美容目的の線引き)。

もちろん、ヒルドイドを50本処方してほしい、美容に良いから~、云々の患者は問題外ですが、ヒルドイドが保湿目的で処方されることがほとんどの現状で、治療目的とはいったい何?保湿は治療なの?保湿はヒルドイドじゃなきゃだめなの??といった疑問は尽きないと思います。

化粧品代わりに使わないようにと言うが…

厚生労働省は「皮膚が乾燥する症状の治療に使われる保湿用の塗り薬(ヒルドイド)が化粧品代わりに使われるケースが後を絶たない」ため対策を検討してきたとしていますが、そもそもヒルドイドも化粧品も保湿用の塗り薬ですから、使い道は一緒です。

ヒルドイドを化粧品代わりに使わないでって言うけれど、ヒルドイドも化粧品も乾燥肌の保湿に使うものなのに、何が違うの?という疑問は当然起こるでしょう。

以前の記事「ヒルドイドの成分って何?」で書いているとおり、ヒルドイドの成分の中で医薬品原料は「ヘパリン類似物質」のみで、その他はすべて化粧品原料でできています。化粧品原料の基剤を工夫して、有効成分であるヘパリン類似物質を浸透させるように処方設計しているのかもしれませんが(分子量が大きいヘパリン類似物質がどこまで浸透するかは疑問ですが)、まったく同じ基剤で、ヘパリン類似物質入りのもの(医薬品)とそうでないもの(化粧品)を比較した試験がなされていないため、効果がどこまであるのかは不明です。「ヒルドイドはアトピーにいいの?」の中でも書いていますが、ヒルドイドが他の保湿剤と比較して優れているというエビデンスはありません。

ヒルドイドが乾燥肌の保湿目的で保険適用を取っているので、ヒルドイドが化粧品代わりに使われてしまうのは当たり前のことであり、いくら表面上は「化粧品代わりに使わないように」と言っても、そのような使い方を認めているのは国であり、保険制度そのものに欠陥があると言わざるをえません。

進まない保険制度改革

端的に表現すると、今回の厚生労働省の規制見送りは、

ヒルドイドは保湿目的で保険適用で使ってOKだけれど、保湿目的の化粧品代わりとしては使わないでね。

という滅茶苦茶なことを言っているも同然です。なぜこのようなことが起こってしまうのでしょうか?

厚生労働省はがん患者団体に一定の配慮をしたと発表していますが、がん患者団体に配慮した内容であれば、保険適用病名を「乾皮症」ではなく、「乾皮症(抗がん剤、放射線治療中のもの)」とすることもできたはずです。また、アトピー性皮膚炎の患者に配慮するのであれば、「乾皮症(アトピー性皮膚炎によるもの)」などと注釈を付けられるはずです。

本来は国が明確な処方基準や規則を設けなければならないはずですが、制限を設けなかった背景には、医療を取り巻く様々な業界や団体へ配慮や忖度があったことは言うまでもないでしょう。

規制が先送りされたことは、患者にとっても我々医師にとっても、ひとまずはホッとするところではありますが、皆保険制度は我々国民の保険料と税金で賄われており、将来の存続が危ぶまれている現状も考えなければなりません。

※アイキャッチ画像はマルホ株式会社の公式サイトより引用

肌のクリニック 院長

岩橋 陽介

岩橋 陽介

東京のニキビやレーザーによるシミ・ニキビ跡治療などを専門とする美容皮膚科です。医師・薬剤師である涌水DRにも時々記事を書いてもらっています。 [医師紹介]

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