美肌ブログ | 肌のクリニック

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ハワイの日焼け止めを禁止する規制法案について

time 2018/07/06

ハワイでは、サンゴに有害な成分を配合した日焼け止めの販売と流通を規制する法案が提出され、今年3月に可決されました。この法案は、米ハワイ州のデイビット・イゲ州知事の承認を待つのみでしたが、7月3日に州知事が署名したことで、2021年から施行されることが決まりました。

紫外線吸収剤

禁止された成分は、「オキシベンゾン」と「オクチノキサート」の2つです。ともに、「紫外線吸収剤」と呼ばれるもので、肌に塗ると、紫外線吸収剤が紫外線を吸収して、紫外線が皮膚の内部に侵入するのを防ぐ働きがあります。

オキシベンゾン

厚労省が定めた化粧品に使用可能な32種類の紫外線吸収剤のうちの一つです。オキシベンゾン類は、紫外線吸収剤としてオキシベンゾン-3が使用される他、褪色防止剤としてオキシベンゾン-1,2,6,9などがあります。

日本では、比較的最近まで大手化粧品会社の日焼け止めにも配合されていたのですが、EUでオキシベンゾン類の環境ホルモン作用が問題視されたことや、経皮吸収性が高く、肌に塗った際に体内に吸収される量が多いことなどから、現在では代替が進んであまり見ることはなくなりました。

ただ、国内の一部の日焼け止めやスキンケア製品にはまだ配合されており、例えば、資生堂アネッサパーフェクトUVスキンケアジェルには、オキシベンゾン-3とともにメトキシケイヒ酸エチルヘキシルも配合されています(2018年の新製品)。また、DHC UVモイスチュアリップにもオキシベンゾン-3が配合されています。

オクチノキサート(メトキシケイヒ酸エチルヘキシル)

オクチノキサートは、化粧品表示名称は「メトキシケイヒ酸エチルヘキシル」です。オキシベンゾンと同じく、EUでは環境ホルモンリストに挙げられていますが、日本では日焼け止めをはじめ、高SPFの下地やファンデーション、UVカットリップなど、様々な化粧品に配合されています。

以前、当院でパッチテストを行っていた際には、このメトキシケイヒ酸エチルヘキシルでアレルギーを起こす患者さんが少なからずいました。近年、カプセル化することにより、肌への負担を減らした原料も流通していますが、今回のハワイ州の法案では、製造方法や原料にかかわらず一律に禁止となります。

日焼け止めによるサンゴの白化

サンゴは動物ですが、光合成によってエネルギーを得ています。それは、体内に「褐虫藻(かっちゅうそう)」という藻(も)類を共生させ、褐虫藻からの光合成産物により栄養を摂取しているからです。

サンゴの骨格はもともと白いのですが、褐虫藻を体内に取り込むことで、サンゴの色が変わります。サンゴから褐虫藻がいなくなると(サンゴが褐虫藻を放出すると)、サンゴの内部は透明化し、もともとの白い骨格の色になります。これが白化現象(はっかげんしょう)です。

白くなったサンゴは、再び褐虫藻を取り込めば元に戻りますが、褐虫藻がいなければ栄養源がなくなるため、しばらくすると死んでしまいます。

このサンゴの白化は、温暖化現象や化学物質など様々な原因がわかっていますが、今回疑われているのが、日焼け止めの影響です。

日焼け止めのサンゴへの影響

日焼け止めが、サンゴの白化や死に関係があるのではという疑いは、10年以上前からありました。

最初は、メキシコのユカタン半島にあるセノーテで、海洋生物の死亡率が高くなったことが始まりです。セノーテは、陥没した穴に地下水が溜まった天然の泉ですが、洞窟のように閉ざされた縦穴や横穴が、海に繋がっています。セノーテに潜るケーブダイビングが人気になり、多数のダイバーが潜るようになりました。

Roverto Danovaroらは、日焼け止めがサンゴに与える影響を調べるため、様々な地域から採取したサンゴを、1リットルあたり10マイクロリットル(10万分の1)の日焼け止めを入れた海水で飼育したところ、18時間から48時間後には、サンゴが藻類の放出を開始し、96時間後には完全に白化しました。日焼け止めを添加していない海水で飼育したサンゴには、白化現象が起こりませんでした。(※1)サンゴと日焼け止め

Danovaroらは、日焼け止めの成分が、藻類に潜伏感染している休眠状態のある種のウィルスを活性化させてしまい、サンゴが褐虫藻を放出することによって白化が起こると推察しています。さらに、放出したウィルスが周囲のサンゴの褐虫藻に感染を起こして、白化が広がるのではないかと懸念しています。

C.A.Downsらは、オキシベンゾンがサンゴの細胞やプラヌラ幼生(サンゴが受精した幼生形、つまり赤ちゃんです)に与える影響を調べています。オキシベンゾンは、光の中であれ、暗闇の中であろうとサンゴに毒性を発揮しますが、光毒性があるため、明るい場所でより毒性が強くなるとされています。

24時間でサンゴのプラヌラの半数が死亡するオキシベンゾン濃度は、1リットル中139マイクロリットル(7000分の1)と、ごく微量であり、サンゴのプラヌラ幼生の変形を引き起こす濃度は、1リットル中、たった6.5マイクロ(15万分の1)で、更に微量と報告されています。(※2)

※1 Roberto Danovaro et al. (2008) “Sunscreens Cause Coral Bleaching by Promoting0 Viral Infections” Environ Health Perspect, 116(4): 441–447.

※2 C. A. Downs et al. (2016) “Toxicopathological Effects of the Sunscreen UV Filter, Oxybenzone (Benzophenone-3), on Coral Planulae and Cultured Primary Cells and Its Environmental Contamination in Hawaii and the U.S. Virgin Islands” Archives of Environmental Contamination and Toxicology, Volume 70, Issue 2, pp265–288.

専門家の異なる見解

日焼け止めの影響を研究している研究者は、ある種の紫外線吸収剤はサンゴのみならず、海洋生態全体に影響を与え、ハワイの飲水や魚にも入り込むため、人体にも影響を与えている可能性があると警笛を鳴らしています。

一方で、日焼け止めがサンゴ礁に影響を及ぼすという、いくつかの研究報告はあるものの、温暖化による海水温度の上昇、乱獲、海洋汚染など、様々な要因があるため、日焼け止めの禁止によって、サンゴ礁がどれだけ保全されるか懐疑的な専門家もいます。

ハワイ州の医師会は、皮膚がんから肌を守る日焼け止めを禁止することは、サンスクリーン剤とサンゴ礁の白化現象の関連性をもっと研究してからにするべきであると述べています。

ハワイで日焼け止めは使えないの?

アメリカでは3500種類以上の日焼け止め製品に、オキシベンゾンとオクチノキセートが使用されています。医師の処方箋があり、必要と認められたものは除外されますが、かなりの製品が販売禁止となるため、すでに各社はリニューアルや代替品の製造を予定しています。

観光客の持ち込んだ日焼け止めは規制対象外のため、旅行する際に持ち込むことは問題ありません。しかし、ハワイ州は、観光客にも使用しないように、その有害性を伝えていくとしています。気になる方は、紫外線吸収剤が入っておらず、酸化チタンや酸化亜鉛といった紫外線散乱剤が主成分の「ノンケミカル」の日焼け止めを選択してください。

ハワイでは、ノンケミカルの日焼け止めをポンプボトルに入れ、ビーチサイドで宿泊客が無料で使用できるようにしているホテルもあります。

書いている人

医師 岩橋 陽介

医師 岩橋 陽介

東京の皮膚科・美容皮膚科「医療法人社団 肌のクリニック」の院長をしています。当院勤務の美容皮膚科医にも時々記事を書いてもらっています。 [医師紹介]

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