肌のクリニック院長の肌ブログ

東京でニキビ治療・シミ治療・調剤化粧品・プラセンタ療法外来をしている医師のブログ

アキュテイン(イソトレチノイン)がニキビに効くメカニズム

time 2016/05/18

日本では未だに認知されていない重症ニキビの治療薬

欧米では「抗生剤が無効な難治性重症ニキビ」に対して、第一選択となっているアキュテインですが、日本では保険で認可されていないために、知っている患者さんはほとんどいません。12年前に日本でアキュテインによるニキビ治療を開始した際、 この治療を行っている医師は私しかおらず、現在でも一部の医師を除き、皮膚科医ですら「アキュテイン?それ何の薬?」という状態です。

日本では保険治療という枠でしかニキビ治療ができないため、欧米より40年以上遅れています。日本の年々積み重なる債務の原因は、皆保険制度による「医療費の増大」が大きな割合を占めており、ニキビなどの身体上の健康を害さない疾患に対しては、新しい薬は認可されない傾向にあります。こういった背景から、保険治療で改善しないニキビをターゲットに、美容系のクリニックが独自治療を進化させてきました。しかし、美容系クリニックで行われているほとんどの治療は、オリジナル療法などと謳われている治療で、そのクリニックが独自にやっている治療であり、医学的根拠(エビデンス)があるわけではありません。たとえ医学的な根拠を謳っていたとしても、そのクリニックで調査、解析した有効例を提示しているだけで、再発率など細かいデータまで出しているものはほとんどなく、長年ニキビの診療にあたってきた私から見ると、クエスチョンマークが付く治療法ばかりです。また、エステや化粧品会社など、本来治療をできない業種までもがニキビ治療へ参入して、「ニキビが治る」などと、違法に宣伝するようになり、日本のガラパゴス化がますます進行していっています。

上記のような状況のため、重症ニキビの患者さんは様々な治療を、大金を払って何年もやり続けることとなり、当院へ来院する頃には、身も心も疲れ果ててしまっている患者さんも珍しくありません。あまりにも様々なニキビ治療が世の中にあふれてしまっているため、何が正しくて何が間違っているのか分からないわけです。ドラッグストアでニキビに効果がありそうな化粧品を片っ端から試したり、ネットで見た民間療法をいろいろやってみたり、エステや美容外科で100万円単位のお金を使ったという患者さんもいます。一般の皮膚科では、保険診療内の治療しかできないため、「ニキビ?抗生剤と漢方、それにビタミンを処方しておくね。また見せてね。」くらいで帰され、改善していなくても「うちではこれくらいしかできないよ。」で終わりです。せめて、重症な患者さんだけでも当院へ紹介してくれれば、その後の患者さんの人生は大きく変わったかもしれないのにと思います。これは、決して大袈裟なことではなく、重症ニキビの場合は、ニキビが将来治ったとしても、大きな凹凸が顔中にできてしまったり、シミが残ったりするケースが多く、そしてそれらは一生残ってしまうこともあるからです。重症ニキビであればあるほど、早く治療をしてあげることが、顔に瘢痕を残さないために重要なことなのです。

アキュテイン(イソトレチノン)がニキビを治す理由

欧米では第一選択薬で使用されているアキュテインですが、日本での処方例は少なく、専門家が書いているサイトはほとんどありません(おそらく当院HPが最も詳しいと思います)。アキュテインがニキビに効く理由として「皮脂腺を縮めるので、アクネ菌が皮脂腺に生息できなくなる。」と説明しているサイトが非常に多いのですが、アキュテインを飲み終わった後、皮脂腺の大部分(90%以上)は元の大きさに戻ります。しかし、ニキビが再発するのは30%程度で、70%は再発しませんから、この理由だけでは説明できません。

私が患者さんから聞かれた際は、細かいメカニズムまで詳細に説明している時間はないため、「この薬は抗菌薬や抗生物質、ホルモン剤は一切入っていません。肌の環境を変えて、炎症が起きにくい肌にしていきます。」というように答えます。

アキュテインがニキビに効果的な理由をまとめると、以下のようになります。

皮脂線を退縮させる作用

これは、上述したようにアクネ菌や黄色ブドウ球菌などのニキビの原因菌が皮脂腺に住めなくなります。(皮膚には常在菌としてこれらの菌が住み着いていますが、皮脂腺から皮脂がでて毛穴を詰まらせるとそこで異常に増殖して、炎症を起こします。)

異常な細胞を分化誘導して、正常化させる作用

例えば、アキュテインは、皮脂を異常に分泌している皮脂線細胞を正常化させたり、白血球を成熟化させたりします。皮脂線細胞が正常化すれば、炎症が起きにくい肌になります。また、白血球は免疫にかかわっている細胞のため、白血球の成熟化は、炎症を抑えるという力を上げてくれます。実は、イソトレチノインと同様の薬は、がん治療や白血病にも使われています。異常な癌細胞に作用し、分化誘導させて正常化、つまり普通の細胞に変化させたり、細胞死させたりします。
 
さらに細かいことを言えば、もっといろいろなメカニズムがあります。
イソトレチノインは、テロメラーゼと、テロメラーゼの発現を制御しているhTERTというプロモーターをダウンレギュレート(抑制)して、細胞の不死化(癌化)を阻害します。それによって、皮脂線細胞などを細胞死へ導く働きがあります。テロメラーゼというのは、テロメアの合成酵素で、テロメアというのは、細胞の寿命を決める染色体の末端部にある構造です。
 
その他にもイソトレチノインはマトリックスメタロプロテアーゼ(MMP)と呼ばれるタンパクを阻害します。具体的には皮脂腺細胞と角質細胞でMMP2、MMP9、角質細胞でMMP13を阻害しますが、これらのMMPはニキビの形成に関与していると示唆されています。つまり、異常なタンパクを阻害して表皮や皮脂腺を正常化させ、毛穴の詰まりを起こさせなくする働きがあります。
 
かなり細かく専門的になってしまいましたが、まだまだ分かっていないメカニズムも多いのも事実です。
 
ニキビ跡については、私は患者へ「この薬はあくまでニキビの治療薬であり、ニキビ跡を改善させる効果は大きくありません」と説明しています。実際には、肌のターンオーバーを更新する作用があるため、ニキビ跡の色素沈着を防いでくれる作用がありますが、過度に期待をする方も多いために、上記のような説明となっています。

肌のクリニック

院長 岩橋 陽介

院長 岩橋 陽介

東京の調剤化粧品とニキビ治療専門皮膚科 肌のクリニック高円寺院の院長ブログ。Twitterではスタッフ全員でつぶやいています。 [詳細]