肌のクリニック院長の肌ブログ

東京でニキビ治療・シミ治療・調剤化粧品・プラセンタ療法外来をしている医師のブログ

その美白化粧品が効かない理由~トラネキサム酸編~

time 2016/06/17

古くから使用されているトラネキサム酸

トラネキサム酸は人工合成されたアミノ酸で、古くから喉の炎症を沈める薬として使用されてきました。その副次的な効果として、メラニン色素細胞を活性化させる「プラスミン」の働きを抑えることがわかり、飲んでいる患者さんのシミやくすみ、肝斑が改善されたことから、その後はシミや肝斑の治療薬として広く使われるようになりました。

「トランサミン」という薬は、医療従事者ならほとんど知っていると思いますが、それを美容分野に製品化したのが、「トランシーノ」です。正直、医師や看護師、薬剤師は「今更あんな古い薬を大々的に宣伝して、売れるの?」と思った方も多いと思いますが、トランシーノはヒット商品となり、その後、資生堂の有名な美白化粧品「HAKU」にも、トラネキサム酸が配合されるようになりました。

m-トラネキサム酸

患者から「m-トラネキサム酸とトラネキサム酸の違いは何ですか?」と聞かれることがありますが、全くの同一成分です。m-トラネキサム酸は、資生堂が独自に用いている呼称(呼び方)で、mはメラニンのmを表現しているとのこと。念のため、資生堂へも問い合わせしましたが、「弊社ではマーケティング上、m-トラネキサム酸と表現していますが、おっしゃる通り、呼称が異なるだけでトラネキサム酸と同一の成分です。(原文ママ)」とのことでした。

さて、このm-トラネキサム酸ですが、内服で効果があることは確実ですが、外用した場合には、どれくらいの美白効果があるのでしょうか。αアルブチンやコウジ酸との比較データがあればよいのですが、私が調べた限りはなく、美白力の強さを定量的に評価することはできませんでした。ただ、いくつかの論文では、外用剤によるシミへの効果は認められていますので紹介します。

トラネキサム酸外用のシミへの効果

軽度の肝斑患者23名に、トラネキサム酸2%配合製剤を12週間(約3ヶ月)使用したところ、23名中22名でmMASIスコア(肝斑面積と重症度スコア)が顕著に改善したとの報告があります。(※1)

4ヶ月の期間、光治療(IPL)を顔全体に当て、顔の片側だけトラネキサム酸を併用、もう半分は併用せずに経過を見た試験があります。トラネキサム酸は、IPL治療中と治療終了後も継続して使用し、IPL治療終了後、12週間経過した後に、mMASIスコアとMI(メラニンインデックス:メグザメーターでメラニン色素の濃さを計測)で評価しました。すると、トラネキサム酸を併用した片側の顔は、使用していないもう片方の顔と比較して、mMASIスコアとMIが顕著に改善していました。(※2)

韓国では、42人の女性を対象に、21名にトラネキサム酸2%とナイアシンアミド2%配合のクリームを1日2回、8週間使用してもらい、残りの21名にプラセボのクリームを使用してもらうという試験が行われました。トラネキサム酸+ナイアシンアミドは、プラセボと比較して、メグザメーターでのメラニン色素濃度が著明に減少しました。(※3)

しかし、反対にトラネキサム酸の外用剤が、あまり効果が出ないケースも報告されています。23人のアジア人の女性に、トラネキサム酸5%外用剤を顔の片側だけ使用し、もう片方にプラセボを使用した試験では、トラネキサム酸はシミを明るくはしましたが、mMASAとMIは、もう片方と比較して有意差は出ませんでした。また、副作用として、トラネキサム酸による皮膚の赤みが認められました。(※4)

※1.  Kim SJ. Efficacy and possible mechanisms of topical tranexamic acid in melasma. Clin Exp Dermatol.  2016 May 2.
 ※2. Chung JY. Topical tranexamic acid as an adjuvant treatment in melasma: Side-by-side comparison clinical study. J Dermatolog Treat. 2016 Aug;27(4):373-7.  
※3. Lee do H. Reduction in facial hyperpigmentation after treatment with a combination of topical niacinamide andtranexamic acid: a randomized, double-blind, vehicle-controlled trial. Skin Res Technol. 2014 May;20(2):208-12.
※4. Kanechorn Na Ayuthaya P. Topical 5% tranexamic acid for the treatment of melasma in Asians: a double-blind randomized controlled clinical trial. J Cosmet Laser Ther. 2012 Jun;14(3):150-4.

トラネキサム酸外用剤の効果をしっかりと出すためには

「トラネキサム酸はナビジョンしか効果がない!」みたいなことをブログ等で書いている皮膚科や、美容外科のDRがいますが、きちんと基本を押さえている製剤であれば、ナビジョンでも、他社でも、院内製剤でも、手作りでも効果に変わりはありません。

濃度

臨床的に効果があるという報告では、ほとんどが2~3%濃度のトラネキサム酸を使用しています。市販品でトラネキサム酸が配合されている化粧品で、濃度開示されているものはありませんが、特許情報や論文などから、資生堂のHAKUやトランシーノに配合されているトラネキサム酸は0.5%~1%前後と予想しています。また、医療機関専売品のナビジョンのイオン導入用トラネキサム酸は、特許情報から2%前後と予想しています。これらは公式には開示されていませんので、あくまで私の予想です。資生堂がイオン導入試験を2%濃度でほとんど行っていることから推測しました。

美白化粧品は、医薬品ではありませんので(医薬部外品)、濃度を濃くすれば、副作用の刺激や赤みが強くなる可能性があるため、高濃度で配合はできません。それに対して、ナビジョンは医療機関で行うイオン導入用の専売品のため、最もイオン導入に適した高濃度となっています。

上に挙げた文献などから、トラネキサム酸が1%以下しか配合されていない市販の化粧品では、美白効果はほとんど得られないのではないかと考えられます。

剤形

トラネキサム酸は水溶性ですので、水溶性基剤より油脂性基剤の方が経皮吸収性が高まります。そのため、クリーム剤にすることで、最も肌に浸透しやすくなり、効果が高まります(クリーム剤はイオン導入はできません)。

イオン導入

トラネキサム酸は両性電解質で,pHによって解離状態が変化するという性質があります。酸性にすると+に解離し、アルカリ性にすると-に解離します。PH等の条件を変えて、トラネキサム酸の真皮濃度を測定した試験では、「基剤のpHを弱酸性にする」ことと、「プラス極からの導入が好ましいこと」が分かっています。具体的にはPH3.5~6.5(最も効率が高いのはPH5)で、濃度は1%~3%が最も良く、PH調整剤はクエン酸を用いることが良いとされています。(通常では、クエン酸緩衝液を作ってPH調整する方が、安定性が高いと思われます)(※5)

次の図はモルモットの皮膚で、PH4.89のトラネキサム酸2%水溶液をプラスで、PH10のトラネキサム酸2%水溶液をマイナスで5分間イオン導入し、角層表皮内のトラネキサム酸濃度を測定したものです。マイナス極からイオン導入した場合と比較して、プラス極から導入したケースは、電気反発力と電気浸透流による力が共に正に作用するため、トラネキサム酸の累積透過量が最も高められたという結果になっています。(※6)

トラネキサム酸のイオン導入

※5. 日本国特許庁. イオントフォレーシスによる美容方法. 特開2007-131547号. 2007.5.31
※6. 日本国特許庁. イオントフォレーシスによるトラネキサム酸の経皮送達. 特開2006-298850号. 2005.4.21

まとめ

トラネキサム酸の外用剤を用いるのであれば、2%~3%程度のものを推奨します。イオン導入をするとより効果が高まり、イオン導入する場合は、PH5前後に調整されているものを、+で導入してください。ちなみに、ビタミンC誘導体をイオン導入する場合は、先にトラネキサム酸を+で導入した後、ビタミンCを-で導入してください。ビタミンCを先に導入し、その後にトラネキサム酸を導入すると、皮内のビタミンCが抜けてしまうことがわかっています。

肌のクリニック

院長 岩橋 陽介

院長 岩橋 陽介

東京の調剤化粧品とニキビ治療専門皮膚科 肌のクリニック高円寺院の院長ブログ。Twitterではスタッフ全員でつぶやいています。 [詳細]